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マスメディアの中の代替医療

マスメディアでの、代替医療の扱われ方について・・・
「南山堂『治療』誌 2002年 Vol.84 原稿」

はじめに

Quackeryという言葉がある。元はquacksalver(金属製の丸い盆=salverを自慢する人)から来た言葉とも言われるが「インチキ医療」の意である。
『quack』は「アヒルのガアガアという鳴き声」が元の意味であるが「ニセ医者」、「ペテン師」、「詳しくもないのに知ったかぶりをして話す人」などを指す言葉になった。アヒルのガアガア鳴く姿がインチキ医療の宣伝をする香具師を彷佛とさせ、面白い。
代替医療が90年代に入り科学的に検証されるようになるまでは、代替医療という言葉はQuackeryとほぼ同義語であった。
代替医療を科学的に検証しようとする機運が高まったのは米国で'92年にNIH(米国立保健研究所)内にOAM(代替医療局)が新設され(初代所長はJoseph Jacobs博士)、英国では'93年にエクセター大学に補完医療の教授ポスト(初代教授はEdzard Ernst教授)が誕生してしばらくした後、90年代の半ばを過ぎてからである。
最近ではさすがに代替医療がQuackeryと同義と考える人は少なくなった。しかし、代替医療の中にはまだまだ科学的にきちんと検証されないまま「quack」的な要素を残したものも数多くある。
Quackwatchという米国の団体はQuackeryを「健康の分野で宣伝し過ぎる(overpromotion)ものすべて」と定義している。文字通り「アヒルがガアガア鳴くように」宣伝する姿が残っているのは我々の身近なところでは新聞や雑誌の広告であろう。
ここでは広く「マスメディアの中の代替医療」として広告だけでなくラジオ、テレビなどのメディアも含めて考えてみたい。
ただし、ここで論じるのはあくまでも媒体としてのマスメディアの役割であり、個々の代替医療の質を問うものではない事をあらかじめお断りしておく。

1.新聞や雑誌の広告

我が国の3大新聞と言われる3紙の朝刊を見てみると毎日必ずと言って良い程、健康食品や補助食品の広告が目にとまる。一般週刊誌や女性誌も同様である。
中でもとりわけ目につくのは出版社が自社の本の広告として載せる形のもので、いわゆる『バイブル商法』まがいのものであろう。

(1)出版物広告の形をとるもの(バイブル商法まがいのもの)
バイブル商法とは自分の著書で薬効を謳い単なる健康食品をあたかも医薬品であるかのように思わせ、荒稼ぎをする一種の詐欺の手口だが、※注1.我が国では既に江戸時代からこのような商法があったと言う。
この種の広告には共通する特徴を有しているものが多い。以下、その特徴を挙げる。

[1]大袈裟な見出し
「〜で〜が治った!」とか「驚異の〜」、「我慢できない〜が消えた!」「劇的に効く!」などの仰々しいキャッチフレーズが多く、さらにそれでも足りないかのように「医療現場を揺るがす凄い効果!!」「〜治療に革命!」「末期ガンにも効いた〜のすごい威力!」「副作用のない〜の驚くべき自然治癒力!」などのサブ・キャッチフレーズが踊る。

[2]権威を印象づける演出
本の著者や監修者には医学博士や元○○大学教授、○○研究所所長などの肩書きがついているものが多く、広告の読者にあたかも権威のある人物が書いた医学的に正しい本と思わせる仕組みになっている。
「国立がんセンターで実証!」とか「○○国ではガン治療薬として認可、日本での特許取得!」などの文章が付いて更に権威を高めている広告もある。
これらは心理学では「光背効果(ハロー・エフェクト)」(仏像の後の光背が仏像を引き立ててありがた味を増す効果の事)と言い、※注2.身近な詐欺の例で言えば「消防署の方から来ました」と言って消火器を売りつける商法で「消防署」という「権威」が使われるのと同じ事だという。

[3]一見具体的な経験談
広告によっては「14cmあった卵巣ガンが親指大に縮小、手術も大成功(48歳女性・主婦)」「〜に転移したガンを〜が退治!(女性・77歳)」などの『具体的な経験談』が匿名で載っているものがある。
しかしここで疑わなければならないのは「話に真実味をもたせて人を信じ込ませるには抽象的な話よりもむしろ具体的な※注3.『騙しのテクニック』の方が説得力を持つ」という事実であろう。
確かに「UFOが着陸し、周囲の住民が怪我をした」という荒唐無稽なニュースを頭から信じる人は少ないだろうが「新潟県南魚沼郡塩沢町に2月16日午後4時20分頃銀色に輝く直径約12メートルの未確認飛行物体が着陸し、その際周囲の住民2名が重症、13名が軽症を負った」と具体的に報道されれば本当かなと思う人も出てくる。
この種の経験談は具体的であればある程、眉につばを付けて読む必要がある。

[4]ある特殊な商品(または食品)を勧める文面
「○○で〜が治った!」の『○○』にあたるのが商品にあたる。実際に広告の本を購入してみて、結論としてその商品を販売するという体裁になっていれば典型的なバイブル商法を疑わなければならない。
中には自社で販売するのではなく第3者の業者が販売元になっているものもあるが、同じ構造と考えてよい。

(2)その他の広告
大手の新聞の広告に限って言えば上記の出版物広告が大半を占めるが、健康食品の広告等で「良心的な」広告が掲載される事もある。
「良心的」と言うのは上の「バイブル商法まがい」の特徴と正反対で見出しもおとなしく、権威付けも顕著でなく、具体的な経験談も載っていないという意味に於いてである。
ただし、このような広告は新聞広告には極めて少ない。(この形の広告の割合は新聞より一般雑誌の方がやや多い。)もちろん、中身も良心的であるか否かは今回の検証の範囲ではない。

(3)新聞の折り込み広告
新聞の折り込み広告(チラシ)は極めてローカルなものが多いと思われがちだが、調べてみると代替医療関連の折り込みには案外と全国展開の販売会社が多いのに気が付く。
また、前述した出版物広告と似た特徴を持つものが多い。すなわち、大袈裟な見出し、権威を印象づける演出、一見具体的な体験談である。特に折り込みは新聞本体の広告よりスペースがあるためか、具体的な経験談が数多く掲載されているのが特徴である。
著者の在住する埼玉県南部で1ヶ月間に折り込まれたチラシ広告を調べてみると以下のようであった

1.『解説○報』:ある関西の自然食品販売会社(名前は日本○○研究会となっている)が全国展開で出しているチラシ。全部で7例の体験談が掲載されている。

2.『○○食品通信』:これも上の『解説○報』と同じ関西の会社(紹介されている代表者が同じ、ただし住所、会社名は別)のチラシで、広告の形態は先の物と瓜二つで全部で7つの体験談が掲載されている。

3.『○○はホントに凄い!!』:これは北海道の会社(日本医療○○研究所)が出している健康食品の広告で27もの病名〜症状名を挙げ、「これらの症状でお悩みの方は○○を是非お試しください」としてフリー・ダイアルを掲げた上、裏面では「会員からのお便り」という形で5つの体験談が紹介されている。

4.『健康特集』:これはこの地区のローカルのチラシであるが「東大病院から始まった奇跡の○○活性法!」とあり、一種の治療院の広告らしいのだが「室長」の名前と写真入りで、経歴には「1995年青春大学予防医学研究学科卒業後○○学長より直接○○活性法を教授され、○○活性指導者に認定される」とあり、『大学』、『教授』、『認定』と権威付けのキーワードがちりばめられている。
とどめに青春大学:名誉学長 東大医学部元教授○○と実名が記され、更に権威付けがなされている。

5.『気軽に出来る健康法』:市内の漢方専門の薬局が出したもので、「腸毒(宿便)を排除すれば慢性病の改善や生活習慣病の予防ができ健康になれる」として便秘コース(一ヶ月4900円)、宿便コース(同8900円)など漢方を飲んで『宿便』を取れば健康になると宣伝している。権威付けには腸内細菌を解説した文章をある東大名誉教授の出した本から引用して使用している。

6.『○○技術基礎セミナー』:東京都の「全国健康○○普及会」が当地で開催したある療法のセミナーの広告。朝9時から午後6時までのセミナーで10250円。「病気の80%は△△からくる○○が原因です」などと根拠のない事(?)が書いてある。

欧米では、米国の『ニューヨーク・タイムズ』、英国の『タイムズ』、『インディペンデント』等の一流紙はもちろん、『USAトゥデイ』や英国のタブロイド紙に至るまで目を通してみても、欧米の新聞には日本の新聞のような「バイブル商法まがい」も含めて代替医療関連の広告はまず掲載されていない。
ただし地方紙には稀に掲載されることがあるらしく、米国の監視団体『Quackwatch』のホームページには1993年にペンシルヴァニアのローカル紙に掲載されたカイロプラクターの新聞広告が紹介されている。※注4.
しかし、これは極めて稀な例で、一般に日本のような広告は無いに等しい。
英米の雑誌では栄養補助食品や薬品の広告が散見されるが、日本の広告に見られた「バイブル商法」的なものは皆無でむしろ『自然』を強調した「ソフト」で「良心的」なものが多い。
ただし『Quackwatch』によるとこのソフト路線の雑誌広告にも問題のあるものがあり、例えば1994年のビタミン剤広告で「アンケートによると10人中8人のドクターが健康のため抗オキシダント剤を服用」と宣伝しているものは実はビタミンEに関するアンケートで好意的な意見が80%あったというだけのものだったというし。
同じく1994年のホメオパシー薬の広告には「『自然からのお薬』(商品名)は普通の薬局の薬と違い、体の自然な防衛力と調和して病気の原因に迫ります」とあり、この表現を『Quackwatch』は科学的に証明されていない事を記載して読者をミスリードしていると非難している。※注4.
ただし、この程度の宣伝文句は日本の広告に比べるとかなりおとなしい方だと感じられるのが正直なところで、如何に日本の広告が特異なものであるかが分かる。

テレビ・ラジオの情報

日常の診療の中でよく「テレビで○○(健康食品)が良いと言っていた」と患者が口にすることがある。
一般に活字になった情報と同様にテレビやラジオで言っていたという情報は信じられやすい傾向がある。テレビやラジオの情報の質には優れたものとそうでないものが玉石混交しているが、日常的に患者の間で話題になるテレビの健康情報は残念ながら教育テレビの「今日の健康」より、ワイド・ショーなどの娯楽番組で面白おかしく紹介されたものが圧倒的に多いという印象を受ける。

(1)テレビの娯楽番組の手法
ワイド・ショーなどの娯楽番組で健康に関する話題を取り上げる時によく使われる手法がある。それは一見科学的な実験の形をとり、あたかも科学的に証明されたものという印象を視聴者に与えるものである。
例えば主婦3人に実験台になってもらい、1週間○○(食品)を食べてもらい、!週間経ったら効果を見る(例えば運動能力だったり視力、聴力、体脂肪率だったりその内容は様々だが)という形が多い。
医学的な目で見れば対象の選別法(明らかにされない)、対象の数(少ない)、コントロールをとっていない、等々から実験の態をなしていないのは明らかで、更に効果を見る方法にも首をかしげるものが多いのだが、一般視聴者は「実験」を見せられると信じてしまいがちであろう。
さらに、単に音声で情報を受けるのと異なり、画像として情報を受けると印象に残りやすい。このような番組ではこのあと、さらに権威付けとして農学博士や薬学博士、場合によっては医学博士が出てきて「この食品には□□という成分が含まれており、これには△△という働きがある」と説明するという趣向になっているものが多い。
もちろん医学的に見れば最初の「実験」と後の解説にある成分の薬効が結びついているという証明はないのだが、一般視聴者にとってはこれで充分説得力があり、その日の夕食にその「食品」を求める主婦が殺到してスーパーの棚から特定の食品がなくなってしまうことがあるという。
この手法はどこか新聞・雑誌の広告で論じたバイブル商法まがいものと似ていないだろうか。
主婦達が特定の食品を食べてみせ、効果があったとするのは、バイブル商法まがいの「具体的な体験談」のようであり、その後の農学博士や薬学博士の解説は文字通り「権威を印象づける演出(権威付け)」である。
これで司会者が大仰に宣伝すれば(「大袈裟な見出し」にあたる)3つの特徴が一致することになる。

(2)あるラジオ番組
平日の早朝にラジオを聞いていると、司会者がある特定の医師と電話で話しているところであった。話の内容はここでは明らかにしないが、常識的な医師の常識の範囲を超えているものであった。
この番組では健康本を出版した医師やその他の医療関係者に直接電話して、その本で書かれた内容を説明させているのだが、世に出る健康本の中には怪しげなものも数多くあり、したがってこの番組も必ずしも科学的に正しいと検証されていない情報を多く含んでいる。
場合によっては『〜療法はここでしか受けられない』と称して特定の医療機関や治療院の電話番号を番組の中でくり返し連呼したり医療法違反すれすれの発言もある。

新聞・雑誌の広告、テレビ・ラジオの
健康番組の問題点

「バイブル商法」まがいの出版広告で挙げた4つの特徴は一種の詐欺の手口である。
詐欺と言えないまでもこれらの特徴を持った広告は広告読者をミスリードする可能性がある広告とは言えるであろう。
つまり科学的な手法できちんと検証されていない薬効をあたかもそうであるかのように見せかけ、読者に書籍や商品である健康食品を購入させるのを目的としているからである。
テレビの娯楽番組で扱う健康に関する情報にも同じような側面があることも既に述べた。
最も大きな問題はこの種の書籍や商品(健康食品)を購入する者、あるいはテレビの視聴者の多くが弱者である病人やその家族であることであろう。
特に治りが悪い悪性疾患や生活習慣病の場合、患者の心理として「わらにもすがりたい」気持ちである所に「〜で〜が治った!」という広告に心惹かれるのも理解できるところである。
これはちょうど心に不安を抱えた人が怪しげな新興宗教の勧誘に乗ってしまうのと似ている。
この問題を解決するにはどうすればよいであろうか。海外の一流新聞のように(怪しげな広告は新聞の品位を汚すから?)掲載しないという見識を日本の新聞に求めるのは無理であろうか。
だとすれば現実的な問題として我々プライマリー・ケア医が果たす役割は大きい。

プライマリ−・ケア医の役割

頭から否定するのではなく、何故その広告の書籍や商品に惹かれたのかを一緒になって考える態度がまず必要であろう。
また、その代替医療について科学的なデータがあるのかどうかも調べて患者と一緒に考えていくのも有効かも知れない。
なぜならこれらの新聞雑誌広告やテレビ・ラジオの情報に惹かれる患者は人一倍健康に関心がある人々であるからである。
しかもそのような人一倍健康に関心のある人々が診療所や病院の外来を訪れているとすれば、彼らと健康のことを話す又とない好機であるとも言えよう。

 
1.詐欺の心理学
こちらは以下の文献を
参照

取違孝昭氏著
「詐欺の心理学」
講談社ブルーバックス
1996年
 
2.簡単にだまされる
人びと
こちらは以下の文献を
参照

小田晋氏著
「簡単にだまされる
人びと」
日本実業出版社
1998年
 
3.だからあなたは
騙される
こちらは以下の文献を
参照

安斎育郎氏著
「だからあなたは
騙される」
角川書店
2001
 
4.こちらはサイトに
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(※英語サイトです。)
 
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