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PSA検診

PSA検診の有効性を考える
「南山堂『治療』誌 2004年 Vol.86 原稿」

問題点の多いPSAスクリーニングは
まだ勧めるべき時期ではない

治療No.11(Vol.85)の『前立腺癌はかかりつけ医の方が発見しやすい−PSAスクリーニングのすすめ−』※文献1.を拝読した。
がんの検診については世界的には
(1)がんが早期に見つかる
(2)がんが早期に治療できる
(3)結果として生存率が延びる
の3つの条件が充たされなければ有効と認められない。※文献2.
ところが、山下論文ではただ単にがんの発見率を見たに過ぎない。最初の2条件は充たされていても最後の条件が充たされているとは言えないので有効性を判断するには不適切である。
不適切であり、有効性が証明されていないのに検診を勧めることもまた不適切と言わざるを得ない。
PSA検診で前立腺早期がんが見つかることは既に報告されており、このことに異論はないが、今世界で問題とされているのはPSA検診で見つかる早期がんを治療することによって患者に益があるのかないのか、または不利益をもたらすことがないかどうか、がよくわかっていないという点である。
前立腺がんは比較的おとなしいがんで、被膜を越えて浸潤・転移しなければ長期に生存できて、他の疾患で死亡することも珍しくない。
無症状のがんを見つけて早期に治療を加えることで、かえって生命予後を悪くしたり、排尿障害や性障害などの不利益だけを与えているのではないかと懸念する声もある。
PSA検診をすることによって本当に患者に益があるかないか、不利益がないかどうか、は厳密なEBMの手法で判定する以外には方法はない。
現在、ヨーロッパと米国でそれぞれ大規模臨床試験が進行中であり、その結果が明らかになるまでは患者に無差別に勧めるべきではない。
PSA検査がいち早く行われ一種の流行のようにもなった米国では、これらの大規模臨床試験によるevidenceが明らかでない現状に鑑みて各学会がガイドラインを作って注意を呼びかけている。
米国内科学会(ACP)では無差別な検診は勧めないとしている。
検査希望者には個々に面接をして「陽性になっても必ずしもがんとは言えず生検をしなければ分からないこと、生検による合併症もあり得ること、がんと判明しても生存率改善の証明がなされていないこと、がんの治療により不利益を受ける可能性もあること」などを話して、個別にPSA検査を受けるかどうか決めるinformed decision makingを勧めている。※文献3.
国立の予防医学研究機関であるUSPSTFでもガイドラインを作っているが、PSA検診が有効かどうかを判断するevidenceが不十分であるとして、勧めていない。※文献4.
種々の理由でどうしてもPSA検査を施行せざるを得ない状況にある時には、「利益があるかどうか不確かなこと、害があるかも知れないこと」を患者とよく話し合ってからでないと検査を実施してはならないとしている。
米国で一番PSA検診に積極的だった米国泌尿器学会(AUA)と米国がん協会(ACS)はともに50歳からの検診を勧めてはいる
が最近では「前立腺がんの早期発見についての決定は、個々に判断し、利益とその結果起こることについて検査前に患者とよく話し合うこと」(AUA)※文献5.
「前立腺がんの早期発見・治療の潜在的なリスクや利益については患者に情報提供なされなければならない」(ACS)※文献6.と共に情報提供のない無差別な検査には一定の歯止めをかけている。
ここで注意しなければならないことがもう一つある。それは日本人も含めてアジア人には黒人、白人に比べて前立腺がんの発生率が1/10近くと発生率が少なく、米国人全体と比べても決して多くないということである。
日本で最近増えてきているとは言え、日系人を含むアジア系米国人の割合を凌駕するようになるとは考えにくい。
果たしてアジア人に米国人と同じ形の検診が適切かどうか、大いに疑問がある。現にアジアで唯一ガイドラインを発表しているシンガポール健康省のガイドラインでは「現時点では検診はアジア人には勧められない」としている。
また、USPSTFのガイドラインの中の「臨床的考察」の項には以下のような一文がある。
「アジア系アメリカ人及びヒスパニック系アメリカ人、他の前立腺癌のリスクの低い人種に於ける(PSA検診の)利益はより小さいものかも知れない」。※文献7.
仮に米国のPLCOトライアルでPSA検診に有効性が認められたとしても、にわかに日本人にも有効と結論づけできないのである。
かかりつけ医での検診を勧める山下論文も含め、日本では無差別にPSA検診を勧める傾向があるが、上記のようなEBMに則った世界の情勢を分析すると、日本のPSA検診はグローバル・スタンダードからはずれた医療行為と断ぜざるを得ない。
少なくとも日本で今一番必要なことはEBMの手法による日本人のevidenceを得る努力であり、現状で有効だとするevidenceが証明できていない以上、今の段階では検査を無差別に勧めるべきではない。
そしてどうしてもPSA検査を受けたいと希望する患者がいれば、がん検診として有効性の確立したものではないことをきちんと情報提供すべきである。
かかりつけ医に役目があるとすれば、まさにそのような情報提供、インフォームド・コンセントに於いてではないだろうか。

 
文献1.こちらは以下の
文献を参照した

山下慎一 他著
前立腺癌はかかり
つけ医の方が発見
しやすい〜PSA
スクリーニングのすすめ
「治療」誌 Vol.85
P187-P190 2003年

文献2.こちらは以下の
文献を参照した

英語サイト
 
文献3.こちらは以下の
文献を参照した

Clinical Guideline
Part.III: Screening
For Prostate Cancer.
Ann Intern Med,
126:480-484, 1997


文献4.こちらは以下の
文献を参照した

Harris, R, Lohr, KN.
Screening for
prostate cancer:
an update of the
evidence for the U.S.
Preventive Services
Task Force. Ann
Intern Med, 137:917,
2002

文献5.こちらは以下の
文献を参照した

Prostate-specific
antigen (PSA) best
practice policy.
American Urological
Association.Oncology
(Huntingt) 2000
Feb;14(2):267-72,
277-8, 280 passim

文献6.こちらは以下の
文献を参照した

Smith, RA,
von Eschenbach, AC,
Wender, R, et al.
American Cancer
Society Guidelines
for the early
detection of cancer:
update of early
detection guidelines
for prostate,
colorectal, and
endometrial cancers.
CA Cancer J Clin
2001; 51:38.


文献7.こちらは以下の
文献を参照した

Screening for
Prostate Cancer:
Recommendation
and Rationale. U.S.
Preventive Services
Task Force. Ann
Intern Med, 137:
915-916, 2002
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